新たな発見 遭難要因

【遭難要因1 リングワンタリング】
小笠原孤酒の「吹雪の惨劇」には書かれておらず、また過去にどの本や記事にも書かれていなかったこと。ドキュメンタリー八甲田山の製作過程、独自取材でいくつかの新しい発見があった。

「ドキュメンタリー八甲田山」の取材で判明した事実。八甲田山雪中行軍遭難事件の遭難原因のひとつは「リングワンダリング=輪回彷徨」

この言葉は今でもあまり知られていない。リングワンダリングとは、人間が視界を閉ざされた状態で歩くと、まっすぐ歩いているつもりが円を描くように旋回してしまうという現象。雪中行軍隊、八甲田への1日目 馬立場。猛吹雪の中を偵察隊が目的地の田代温泉を見つけようと先行する。しかし馬立場から鳴沢へ向かう道を外れ、付近を一周してしまう。




馬立場を下ったところにある銅像茶屋



進んだコースと地形図を見たとき、違和感を覚えた。なぜ雪中行軍隊は旋回してしまったのか?現在は一帯に木が生い茂っていて森になっているが、明治35年当時は木はまったく無く、視界は開けていた。馬立場を下り、鳴沢に向かうあたり、現在は銅像茶屋の駐車場と県道付近、道路は切り通しのようになっているが、当時はほぼ平地だった。どう考えても一周してしまうような場所とは思えない。

現場に足を運び、ルートや地形を何度も確認するが一周した原因は不明。その後、登山関係の資料をリサーチしている時、リングワンダリングという現象があることを知る。

この分野の専門家である小幡常啓教授にインタビュー。行軍ルートを確認してもらい、遭難した雪中行軍隊がリングワンダリングに陥っていたことを確認するに至った。

2日目に平沢第一露営地から田代に向かおうとした時もリングワンダリングに陥り、駒込川の本流付近に迷いこんでしまう。そこから鳴沢渓谷を登り、鳴沢で窪地を見つけたのは夕方だった。 丸一日歩き続けたが平沢から鳴沢は直線距離でわずか600m。リングワンダリングに陥ったことにより、兵士たちは体力を著しく消耗してしまった。




目的地・田代新湯と昭和40年代まであった田代平温泉旅館